日本ケミコン株式会社日本ケミコン株式会社

電気二重層キャパシタ開発プロジェクト

世の中にまだ見ぬ製品を送り出す。その手応えが日本ケミコンにはある。

世の中にまだ見ぬ
製品を送り出す。
その手応えが
日本ケミコンにはある。

Introduction

日本ケミコンを代表する製品の一つである電気二重層キャパシタ。
その製品を市場に送り出し、一定の評価を得るためには、
製品に関わるさまざまな人の努力や苦労があったことは言うまでもない。
多くの人間が製品開発に従事したが、代表して3 名の声に耳を傾けてみたい。

Phase1

60度の耐熱温度を85度へ引き上げる

日本ケミコンを代表する製品である「電気二重層キャパシタ(Electric Double Layer Capacitor : 略称EDLC)」。電気二重層キャパシタとは、コンデンサに分類される大電流を瞬時に蓄えることができる蓄電デバイスのことである。主な特徴は「数百万サイクルの充放電が可能(長寿命)」「大電流による急速充放電が可能(高い出力密度)」「充放電時の損失が少ない(低い内部抵抗)」「完全放電が可能(放電深度に制限がない)」「構成材料に重金属を含まない(環境負荷への対応)」「異常時の安全性が高く、外部短絡しても故障しない」などがあげられる。中でも大電流を素早く充放電できること、そして長寿命は大きなポイントになっている。

現在、自動車を始めとした多方面で使われている電気二重層キャパシタだが、その開発は2003年にまで遡る。爪田は、入社後、ほどなくして電気二重層キャパシタの研究を担った一人だ。彼が担当したのは電気二重層キャパシタの高耐熱化。爪田が基礎研究部門に在籍していた当時は、電気二重層キャパシタの耐熱温度は60度だった。それを85度にまで引き上げる。それが爪田のミッションだった。

目標としていた市場は自動車だ。自動車メーカーに採用されるには、厳しい環境に耐えられる高耐熱性は絶対的に必要な条件だった。

開発設計部門爪田 覚

2003年入社 応用化学工学専攻修了

入社後、基礎研究部門で電気二重層キャパシタの研究に従事。2009年より3年間、米国にあった研究所に赴任。
帰国後、基礎研究部門勤務を経て、現在は高性能キャパシタの開発設計に携わる。

だからこそ爪田が目標としていた85度は必達するべきテーマだったのだ。自らの知見を総動員し、一方で多くの人の意見を取り入れながら爪田は研究に打ち込んだ。だが、長期間にわたり満足がいく実験結果は得られなかった。それだけ高いハードルだったのだ。「もうやれることは全部やった」と開き直った爪田は、賭けに出る。試薬などを、メカニズムを全く無視して放り込んだのだ。「ダメもとという気持ちで、本当に適当にやりました」と笑う。すると、全く予期せぬ結果が出た。この「でたらめな実験」が契機となり、それまで長期間にわたって見つけられなかった、高耐熱化を阻害する因子を突き止めることができ、対策を発見することができたのだ。爪田の実験は、当時60度だった耐熱温度を70度にまで引き上げることに貢献した。当時の業界内では、量産化を見越した信頼性を含めて「世界初」の快挙だった。爪田は70度の成果を見届けた後、当時アメリカ・カリフォルニア州にあった研究所に赴任した。世界にある新しいシーズを見つけることが爪田の新たなミッションだった。爪田の成果は後輩に受け継がれ、現在では85度の高耐熱化を実現している。

Phase2

新しい用途を開発する苦労と手応え

2004年に入社した菊田は、ソリューション開発を担当する部門で、電気二重層キャパシタを使ったモジュール化を担う一人だ。爪田を中心とした基礎研究部門と開発設計部門が一丸となって取り組んでいた、さらなる高機能化。この“タスキ”を受け継ぎ、より付加価値の高い製品づくりを市場での用途開発面で担ったのが、菊田が所属するソリューション開発部門だ。

電気二重層キャパシタの用途をさらに拡大させることが菊田たちの重要なミッションとなっていた。次なる市場は建設機械業界だった。当時、排ガス規制が強化されており、それまで業界ではあまり選択肢になかったハイブリッド化が現実味を帯びてきたのだ。建設機械業界とはじめて対峙することになった菊田は驚いた。それまで担っていたオフィス機器などでは想像もつかない設計時の制約条件が提示されたのだ。たとえば振動。ダイナミックな動きを伴う建設機械(油圧ショベル・クレーンなど)だけに、その数値は一般的な家電品の10倍を超える条件が求められた。

菊田は、営業担当とともに受注活動から関わっていった。当時のことを菊田はこう振り返る。「はじめての業界と接する場合、当初は言葉や文化の違いに戸惑うこともありました。社内でもはじめての部品を作り、新しい製造方法、購入業者の選定など、私が担当する設計や部品選定、評価がルーチン化するまでに時間がかかりました。苦労はありましたが、お客様や社内の関係部署と連絡を密にすること、そして妥協しないと自分を戒めることで乗り切りました」。

開発設計部門菊田 剛広

2004年入社 電子工学科卒

高校時代から部活動で小さな電気自動車や、マイコンで動くロボットづくりに携わる。入社後は一貫してソリューション開発の部門に在籍。主に電気二重層キャパシタを使ったモジュールの開発設計に従事している。

建設機械業界への受注提案活動が本格化する一方で、当初の目標だった自動車業界への提案活動も本格的に動いていた。基礎研究部門、開発設計部門を始めとして社内の関連部署が一つになって取り組んできた成果が実ってきたのだ。国内自動車メーカーがはじめて車載用途として電気二重層キャパシタの採用を決定した。社内は湧いた。2011年のことである。

Phase3

新製品づくりの「最終ランナー」としての責任

永井剛司は、学生時代から機械を専攻し、入社後は生産技術開発一筋に取り組んできた。日本ケミコンにとって電気二重層キャパシタは重要な製品であることは、永井も認識していたが、生産技術という面では一筋縄ではいかないことも想定していた。量産開始予定までの時間も限られているため、短期間で工法確立の構想から運用開始までを行わなければならない。日本ケミコンの生産技術の叡智を総結集してプロジェクトは動いた。関わったメンバーも数十人に及ぶ。日本ケミコンの場合、ほとんどの製造設備は自社開発だ。
ノウハウの蓄積は豊富にある。だが、その知見があっても、今回の案件は永井を悩ませた。新規技術を設備に豊富に取り入れた分、立ち上げ当初は機械・制御ともに不具合が続出し、結果として不良品が多く生じ、製品の良品割合に影響を与えていた。

原因を究明し、急いで改造しなければならない一方で、生産ラインも止められない…。永井は振り返る。「ライン停止時間を最小限にするために、小規模の改造は生産の合間を狙って、大規模な改造は工場全体が停止する日程に合わせて実施していきました。また、改造失敗によるライン停止のリスクを減らすためにも、事前に細かく打ち合わせて不具合の改修を行いました。量産しながらの設備不具合対策の実施は難しい場面も多々ありましたが、部門全体が一丸となって対応したことで、困難を乗り越え、今の安定した生産ラインに繋がったと思っています」。

生産技術開発部門永井 剛司

2000年入社 機械工学専攻修了

入社後、一貫して生産技術開発に携わっている。学生時代の研究テーマは「凍結光弾性法、有限要素法による応力解析」。学生時代の専攻を活かして、新規技術を積極的に取り入れた工法確立量産設備開発に挑んでいる。

現在、生産ラインは永井が想定したとおりの安定した動きを見せている。だが、まだ終わりではない。永井は既に新しいラインづくりも想定している。さらなる品質の向上、省人化、AIや多軸ロボットの活用など、新しい技術や工法を取り入れた、従来の方法にとらわれない新しい生産ライン設備に取り組みたいと意欲を見せている。

EPILOGUE

プロジェクトは、まだ終わりではない

爪田は現在、更なる高機能キャパシタの開発に取り組んでいる。電気二重層キャパシタの高耐熱化に尽力した経験は、爪田に何を残したのか。「成功を信じ続けること。諦めないことですね。自分一人だと思うと折れてしまいますが、その点では上司や先輩、同僚が技術的にも精神的にも支援してくれたことが、諦めないという思いに繋がっていたと感じています」と振り返る。
建設機械業界と対峙し、用途開発面で大きな進歩を支えた菊田はこう振り返る。「設計担当なので、“とりあえずやってみよう!” とは言いづらいのですが、思いきってやってみることが成功やゴールの近道だと感じました」。菊田は続ける。「省エネルギー技術の進化と適用範囲の拡大は、今後ますます進んでいくと思います。普段私たちが利用する自動車や電車の運動エネルギーを効率良く回収するためには、電気二重層キャパシタは最適な製品だと自信を持っています。電気の力を使う全ての乗り物に電気二重層キャパシタが搭載されることが、私自身の目標の一つです」。
生産技術開発面で大きなチャレンジを乗り越えた永井は、「生産技術開発は、基礎研究から受け継がれてきたタスキを持って最後に走る存在です。責任も伴うとともに、大きな手応えにも繋がります。また他社との差別化にも関わる要素でもあります。それだけに、これからも最新技術と向き合い新しい生産ラインづくりに取り組みたいと思います」と語る。開発当初の目標を達成できた電気二重層キャパシタプロジェクトであるが、さらなる高機能化を図り、まだ顕在化していない用途に使われる日が来ることは間違いない。グローバルなマーケットで、日本ケミコンの電気二重層キャパシタが市場を席巻することができるのか。その命運は、これから入社する新しい力が担うといっても過言ではない。